カテゴリ:文芸・書評( 5 )

イン・ザ・プール/空中ブランコ

奥田英朗 著 

イン・ザ・プール」2002年5月発行 文藝春秋社
所収作品:初出
・イン・ザ・プール ・・・・ オール読物 平成12年 8月号
・勃ちっ放し ・・・・・・・・・・ オール読物 平成13年 8月号
・コンパニオン ・・・・・・・・ オール読物 平成13年11月号
・フレンズ ・・・・・・・・・・・・ 別冊文藝春秋 平成14年1月号
・いてもたっても ・・・・・・ オール読物 平成14年 3月号

空中ブランコ」2004年4月発行 文藝春秋社
所収作品:初出
・空中ブランコ ・・・・・・ オール読物 平成15年 1月号
・ハリネズミ ・・・・・・・・ オール読物 平成15年 7月号
・義父のズラ ・・・・・・・・ オール読物 平成15年10月号
              (「教授のズラ」加筆改題 )
・ホットコーナー ・・・・ オール読物 平成15年 4月号
・女流作家 ・・・・・・・・・・ オール読物 平成16年 1月号

伊良部一郎という一風変った精神科医が登場するシリーズもの。それぞれ一話完結の短編になっているので、どこから読んでも楽しめます。「空中ブランコ」は昨年第131回直木賞を受賞して注目され、明日27日(金)夜9時、フジTVでドラマも放映されるようです。

30代半ばの伊良部一郎はバツイチでマザコン気味の精神科医。診療室ではどちらが患者なのか判らない様な対応を見せる、頼りなく変人じみた謎(迷)医? 天然というのか、子どもじみた好奇心と執着心、意外な行動力で、患者の問題に深く関わっている活動に自分自身も熱中し、それが結果として患者を癒して行くことに。謎医は名医だったのか、それとも只の物好きな変人なのか。当事者にとっては深刻な問題が、伊良部の極端な行動を通して面白く描かれ、読者をひき付けます。
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by hitokohon | 2005-05-26 21:53 | 文芸・書評

風-BLOW-(硝子の街にて19)

サブタイトル:9.11その朝
柏枝真郷 著(茶屋町勝呂 イラスト)2005/3/5 発行 講談社X文庫

「硝子の街にて」は、1996年の「窓-WINDOW-」からの続く文庫書き下ろしのシリーズ。ニューヨークを舞台に、アメリカ国籍の日本人青年広瀬伸行と幼馴染のシドニーの恋愛模様を軸にしながら、毎回彼らが遭遇する事件とそれをめぐる人間模様、そして解決までを描く、ボーイズラブ系の推理小説です。柏枝真郷さんは、ボーイズラブ系ではとても好きな作家で、このシリーズも毎回楽しみに読ませていただいてます。

アメリカ駐在の日本人商社マン夫婦の家庭に生まれた伸行は、幼少期をアメリカで過ごしました。その時の隣人がシドニーの一家であり、共に一人っ子だったふたりは兄弟の様に仲の良い幼馴染でした。しかし、両親の離婚により伸行は母の実家である東京に戻ることになり、二人は別れ別れに。その後文通を続けるだけだった二人が再会したのは、成人するまで日米二重国籍だった伸行が日本国籍を捨てアメリカ人としてニューヨークへ戻って来た時でした。

ゲイであるシドニーは証券会社に勤める恋人のロッドと暮らしていましたが、伸行の出現は二人の間柄に波紋を広げます。何故なら、伸行はシドニーにとって今も忘れがたく思う初恋の相手であり、ロッドもそれに気付いてしまったからです。気付かないのは、シドニーがゲイであると知っても、幼馴染の親友とばかり思い込んでいる伸行だけでした。そんな微妙な三角関係がしばらく続いた後、紆余曲折を経て、何とか恋人同士になって行くシドニーと伸行・・・。というのが「硝子の街にて18」までの物語の大筋です。

そして、9.11その朝。ニューヨーク市警察の刑事であるシドニーと、日本の旅行会社の現地事務所に勤める伸行、そして友人で消防士のスティーブ。この街に暮らす人々にも、この街を訪れている人々にも、いつもと同じ朝が訪れた2001年9月11日。街が本格的に動き出そうとしている午前9時前に、それは突然襲ってきたました。アメリカ同時多発テロ。忙しく喧騒に満ちながらも平穏な日常が、悪夢の戦場と化した、9.11その朝。その瞬間から、伸行が、シドニーが、スティーブが、それぞれの職務を、どんな思いで、どのように遂行して行ったのか。ニュース映像だけでは知り得ない当事者たちの姿を、小説というかたちで描き出しています。

消防士のスティーブが、救命救急士たちと救助した怪我人を搬送した病院で見た、たくさんのDOA(Dead on Arrival=到着時死亡)タグ・・・。殺人事件としてカウントされはしないが、これは明らかに殺人だと思うシドニー。宿泊先に戻らない日本人観光客の安否確認に奔走する伸行。思わぬところで得られた一般市民の協力と機転と勇気がお互いを救う事につながったり、混乱に乗じて悪事を働く不埒者が出没したり。そういう部分を書くには、資料収集や取材が大変だったのではないかと思われました。

フィクションであるこのシリーズの中で「あの日」を描く事の是非を思い、シリーズを「あの日」以前で終わらせる事も考えたという著者の柏枝さん。ボーイズラブという枠に関係なく、迷いを振り払って、真正面から「9.11その朝」を書かれた作家としての覚悟に、敬意を表したい思いで一杯です。
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by hitokohon | 2005-03-20 22:44 | 文芸・書評

遙かなるクリスマス

さだまさし 著 2004/12/6 発行 講談社
講談社サイト内の「遙かなるクリスマス」紹介は、こちらです。

昨年大晦日のNHK紅白歌合戦で歌われてちょっと話題になった、「遙かなるクリスマス」のフォト・ストーリー版です。さださん直筆の歌詞が、表紙も担当された内山順二さんはじめ複数の方が撮影した写真をバックに、綴られています。その他、活字の歌詞と、この歌に込められた思いを書いた「あなたは何をしましすか」が掲載されています。

「遙かなるクリスマス」は反戦歌だと、さださん自身本の中でも明言しています。そして、表面的には平和な日本にいる自分達と戦下にある地との、物理的精神的距離感とそれへの葛藤が歌詞の中では語られています。身近なささやかな幸福を享受し守りたいと思う自分と、混迷する世の中の一員でもある自分。その矛盾とか不安とか、このままでいいのかという思いと今の自分達だけの平和に閉じこもっていられたらという卑怯さ。以前から幾度となく繰返し語られてるテーマだけれど、これまで以上に切実に伝わって来るように思いました。

さださんのアルバム「恋文」にある「遙かなるクリスマス」ライナーノーツは、
食べ物やお金などと引き替えに人々が「想像るす力」を奪うことは為政者としては最も都合が良いことなのだ。無知は罪だ。「知らせてくれなかったから知りませんでした」なんて子供みたいな言い訳は通らない。知る権利はマスコミが都合の良い時に使う印籠ではない。我々の正当な権利だ。もしもマスコミが知っていて知らせなければ、それはマスコミの罪だ。そういうことは沢山ある。考えよう、想像しよう、自分が置かれている場所を正しくつかもう。
あなたの大切な人の笑顔を守るために。
と結ばれています。そして本書「遙かなるクリスマス」のあとがきは、次のように締めくくられています。
あなたの大切な人の笑顔を守るために。
あなたは何をしますか?

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by hitokohon | 2005-03-06 12:42 | 文芸・書評

小説道場

中島梓 著

 『小説道場』は1986年3月からⅠ・Ⅱが新書館より発行された。その後92年8月に改めて『新版・小説道場』として光風社出版から刊行され、97年10月までに全4巻が発行されている。

作家栗本薫でもある著者が、1984年から95年まで、71回に渡って雑誌『JUNE』『小説JUNE』〔(株)マガジン・マガジン 発行 〕誌上に連載した投稿作品評。『JUNE』は、いわゆる女性向けの耽美小説、俗にいう「やおい」系の雑誌で、創刊20年を超える歴史がありますが、一般には馴染みがないかもしれません。

と言うことで、投稿されてくる作品も当然このジャンルのものです。つまり、主に女性読者を対象に女性作家が書く、男性同士の性愛を含む恋愛を軸にした物語なんですね。特殊なジャンルだけに、中島氏が投稿者に度重ねて問いかけるのは、「何故この系統の作品を書かねばならないのか」と言う、書き手の内面への問題意識の確認でした。時としてかなり手厳しい個人批評であり叱咤激励であり、また共感と理解でした。投稿者と中島氏の間の一種の闘いの場であると同時に、中島氏も書いておられたようにセラピーの様にも感じられました。
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by hitokohon | 2002-08-01 22:00 | 文芸・書評

はてしない物語

ミヒャエル・エンデ 著 1982年6月発行 岩波書店

映画『ネバーエンディング・ストーリー』の原作としても有名・・・・だったらしい。映画を観たことなく本を手にし、読み始めてやっと気がついた。考えたら、まんま直訳の題名だったんですが・・・・。

児童書ですが大人にも十分楽しめます。人は豊かな心の糧として空想世界に遊ぶ事がありますが、空想世界に行ったままでは現実世界を充実したものとする事は出来ません。空想と現実、二つの世界を行き来しながら、自分の本当に求めるものに向かう試練と出会い、自分が自分である事の喜びを知る物語です。

この本を読んだ後にTVで映画を観ましたが、安易な結末に唖然としてしまいました。空想世界ファンタージェンから自分の世界に戻る事を決意した主人公バスチアン少年が、白竜の背に乗って現実世界に送られて帰って来たのです。原作では、帰ることを望んでからが彼の試練であり、それを乗り越えたのは彼の力でした。白竜は最後に現実世界に戻る扉を指し示しただけです。映画しか観たことない方には、是非ご一読をお勧めします。
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by hitokohon | 2002-08-01 21:58 | 文芸・書評