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命を救う「ふれあい囲碁」

安田泰敏 著 日本放送出版協会 2004/11/10 発行 生活人新書124

以前紹介した「子どもと始める囲碁」(岩波アクティブ新書)の著者、プロ棋士安田泰敏九段の著書です。「子どもと始める囲碁」の中でも紹介されていた、保育園や幼稚園、福祉施設などで安田さんが行っている、囲碁を通してコミュニケーションの楽しさを伝える活動について書かれています。

安田さんはプロの棋士ですが、この「ふれあい囲碁」の活動では、囲碁の技術的向上についての指導はしていません。全くの囲碁初心者の幼児や小中学生、障碍をもった方々などに、対戦相手が居なければ出来ない囲碁というゲームの基本ルールを教えます。石を置くことによって自分の意思を表現し、石を置くことによって人とふれあう喜びを感じてもらおうと云う試みなのです。

いじめを苦に自殺した中学生のにニュースを見て、孤立して苦しんでいる人を救いたい、という一心で安田さんはこの「ふれあい囲碁」の活動を始められたそうです。
国は、「命の大切さ」や「心の教育」に力を注いでいますが、理想や理屈だけでは一人の命も救えません。
子どもたちが望んでいるのは、「自分の傍にいてほしい」「自分の話を聞いてほしい」「自分のことを見守ってほしい」ということなのです。
と、この本の「まえがき」に書いておられましたが、安田さんが「ふれあい囲碁」で行っている指導の姿勢は、まさにその子どもたちの望みを叶えるように、相手に寄り添い見守る事でした。決して囲碁を教え込む事ではないのです。読み進めながら、そんなに上手く行くものだろうか、という疑問も感じましたが、現実に奇跡はいくつも起きたようです。

そんな中で出会ったある保育園児の少女は、囲碁の先生になって「世界の人に囲碁を教えて、みんなで仲良く幸せになりたい!」と将来の希望を話したそうです。それがキッカケとなって、安田さんの「ふれあい囲碁」の活動は海外にも広がる事になりました。これは、小林光一九段が著書「棋士ふたり」に書かれていた、女流棋士であった亡き妻禮子さんの、囲碁普及への思いにつながるものだと感じました。

囲碁についてより、子どもと向き合う姿勢、人と関わる思いを教えられる内容でした。
by hitokohon | 2005-05-14 15:00 | 囲碁関連
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