検索バカ
藤原智美 著
2008年10月10日発売 朝日新書140

------ 朝日新聞出版サイトの紹介 ------
情報社会の進展で、「思考」は「検索」に、「言葉」は「情報」に置き換えられてしまった。私たちは「考える力」を再生できるのか。さらに「空気を読め」という同調圧力が、自立した思考を奪っている。一個人として、世の中を生き抜く思索力とは何かを考察する。
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1992年「運転士」で芥川賞を受賞した小説家で、「暴走老人!」などのノンフィクション作品もある著者が、自らのネット体験を踏まえながら、人が生きていく上で、自分の力で「考える」ことがいかに重要を語っています。

日々ネットにアクセスすること、家族や地域・職場でのコミュニケーションのありかた、自分自身を省みつつ、考えさせられる一冊です。
# by hitokohon | 2008-11-02 17:13 | 時事・流行・社会問題
西太后
サブタイトル:大清帝国最後の光芒
加藤徹 著 2005/9/25 発行 中公新書

著者の加藤さんは1963年生れの中国文学者で、『京劇』という著書でサントリー学芸賞を受けています。北京大学に留学していた事もあり、お連合いも北京出身の方だそうで、中国の文化には身をもって触れいるようです。そうした文化芸術面や中国人気質への理解を背景に、資料の検証を重視して書かれたこの本は、これまでに読んだ西太后伝では語られなかった真実に迫る説得力がありました。

1984年に製作されたリー・ハンシャン監督の映画『西太后』(続編もありました)の公開で、「四億の民に君臨した」猛女として日本でもその名が知られるようになった西太后。その後公開されたベルトリッチ監督の映画『ラスト・エンペラー』の冒頭にも、ラストエンペラー(宣統帝溥儀)を次期皇帝に指名して亡くなる場面が描かれていました。ベルトリッチ監督と同時期に、リー・ハンシャン監督も『火龍-THE LAST EMPEROR』という溥儀を主人公にした映画を作っていますが、こちらには西太后は登場しなかったように記憶しています。

西太后はアヘン戦争が起きる5年前の1835年に生れ、日露戦争から4年後の1908年に亡くなりました。17才で咸豊帝の側室となり、やがて次期皇帝となる皇子を産みました。1861年26才の時に咸豊帝が亡くなり我が子同治帝が即位すると、嫡母である咸豊帝の皇后とともに皇太后となり、前皇后の東太后に対し西太后と呼ばれるようになりました。その時から、幼い皇帝を補佐するかたちで清朝の政治に関わるようになった訳です。映画『西太后』では、そこで独り歯を食い縛って政治の実権を握り、政敵を残虐なまでに次々と追い落として行く姿が描かれて、若い頃から「四億の民に君臨した」西太后のイメージが出来上がりました。

しかしこの本を読むと、若き西太后は意外にも回りの状況に合わせた待ちの姿勢だった事がわかります。我が子同治帝が若くして亡くなると、夫咸豊帝の弟とその妃になっていた実妹との間に生れた甥の光緒帝を即位させ、再び幼帝を補佐して政治に関わりますが、皇帝が成人すると実権を皇帝に戻し隠居しています。後に光緒帝と対立して実権を取り戻す事になりますが、何としても政治的権力を握り続けたい、というのが西太后の望みではなかったようです。彼女が欲したのはもっと女性的な権力、物欲的力の示し方だったのであり、そうした姿勢が日清戦争敗北の一因ともなったというのです。そんな清朝側から語られる日清戦争というのも興味深いです。

歴史モノをこんなに楽しく読ませてもらったのも久しぶりでした。『京劇』でも西太后に触れているそうなので、こ機会があったらこちらも読んでみたいと思いました。
# by hitokohon | 2006-01-12 00:22 | 歴史・ノンフィクション
僕から君へ
羅川真里茂 傑作集 2005/5/18 発行 白泉社文庫(コミック)

「僕から君へ」・・・・・・・・平成10年 メロディ1月号掲載
「東京少年物語1」・・・・平成 3年 花とゆめ9号掲載
「東京少年物語2」・・・・平成 6年 花とゆめ18号掲載
 エッセイ「裏」・・・・・・・・平成14年 別冊花とゆめ5月号掲載
「がんばってや」・・・・・・平成13年 別冊花とゆめ7月号掲載

羅川真里茂さんは、アニメ化もされた「赤ちゃんと僕」や「ニューヨーク・ニューヨーク」などの長編作品で有名ですが、この文庫は上記の「田舎3部作」といわれる短編や中篇を収めた作品集です。

少女漫画ですが、どの作品も主人公は少年や青年。彼らの恋人である女の子も登場しますが、その恋愛模様はあくまで脇の話題で、中心になるのは、男の子同士の友情とライバル意識などを根底とする微妙な絆の様なものです。故郷を離れ東京に出た青年たちが、故郷で少年時代を共にした友人や、同じように故郷を後にして来た青年との関係を通して、故郷と今自分が暮らす都会との距離感に折り合いをつけて行く物語です。

「ニューヨーク・ニューヨーク」がゲイのカップルを主人公にした物語なので、ボーイズラブ(BL)系の作家として認識されることもある羅川さん。たしかにBLテイストな作品は多いと思います。しかし「ニューヨーク・ニューヨーク」という作品は、ただのBLには収まらない普遍的な人間物語です。

私が最初に読んだ羅川さんの作品が「ニューヨーク・ニューヨーク」だったのですが、読んでみようと思ったのは、あるゲイの方がサイトに載せていた感想を読んだからなんです。そして白泉社文庫版で2巻のあとがきを書いている伊藤悟さんは、同性愛者として講演などの活動もされている方です。BL読みの女性読者だけでなく、ゲイの男性読者の共感も得られるというのは、それだけ作品にリアリティがある証拠だと思います。「赤ちゃんと僕」に子育て中のお母さんたちが共感したのもそうでしょう。作品集「僕から君へ」も、そうした何かが伝わる作品です。
# by hitokohon | 2005-06-12 20:08 | 漫画・アニメ関連
野垂れ死に
藤沢秀行 著 2005/4/20 発行 新潮新書

藤沢秀行さんは、1925(大正14)年横浜市生まれで、日本棋院の元棋士。昭和52年から棋聖戦を6連覇して名誉棋聖となり、他にも王座、名人、天元などのタイトルを次々と獲得。平成3年にはタイトル獲得最高齢(六十六歳)で王座に返り咲いた。平成10年に現役を引退した後も、日々碁の勉強は欠かさず、後進の指導などにもあたっている。

自らを札付きの無頼漢だというその人生は半端ではない。常に碁の事が頭から離れず、誰よりも勉強熱心な棋士として実績を上げて行く一方で、私生活では、酒浸りでアル中になり、競輪にのめり込み事業に手を出しては億単位の借金を作り、妻以外にも二人の女性に子どもを産ませたりと、絵に描いた様な道楽ぶりであった。その上3度もガンに侵されながらその度に克服している。どう考えても凄まじ過ぎる人生だが、藤沢さんの語り口は何とも軽やかで潔く、いっそ痛快と思えるくらいだ。

「野垂れ死に」の前に、妻の藤沢モトさんの著書「勝負師の妻―囲碁棋士・藤沢秀行との五十年」( 角川書店2003年2月発行 角川oneテーマ21 )も図書館で借りて読んでいた。普通の女性なら当の昔に逃げ出してるか、精神的に追い込まれているだろう生活を、負けん気と努力と行動力で乗り切って、決して泣き言をいわず達観している姿勢には感服するしかなかった。

モトさんというバックボーンがなかったら、秀行先生がこんなに痛快に人生を語る事は出来なかっただろうなぁ、と思いながら読み進めていたのだが、最終章でちゃんとモトさんへの感謝の気持ちも語られていた。これからの日本ではもう、秀行さんの様な男性も、モトさんの様な女性も出てこないだろうと思いながら、読後感は悪くない。人間って愛しい生き物だと思えた
# by hitokohon | 2005-06-08 22:48 | 囲碁関連
「光とともに…」8巻
サブタイトル:自閉症児を抱えて
戸部けいこ 著  2005/6/30 発行(奥付はそうなってますが、5/28 発売) 秋田書店

昨年11月の7巻発売時に自blogでも紹介した「光とともに…」ですが、この度8巻が刊行されました。秋田書店のコミック雑誌月刊「for Mrs.」連載中。連載開始は2000年11月号からで、1巻発行は2001年7月だったようです。(1~7巻は貸出中なので今確認できないんですが)

自閉症という障碍を持って生まれてきた光くん。母の幸子さんは、夫や義母、周囲の無理解で、孤独な育児を強いられていましたが、専門の施設の職員に出会って励まされ、夫の理解も得られる様になり、次第に周囲との関わりの中で、光くんのための子育てが出来るようになって行きます。小さかった光くんも小学校の特殊学級に通うようになり、8巻では小学6年生に。地元の中学へ上がれるのか、養護学校へ行った方が良いのか、両親にとってはまた悩み多き時期にさしかかっています。

自閉症というと、私自身その名前のせいで、子どもを持つまでは心身症的な病気だと勘違いしてました。体の障碍と違い一見して判り難いので、我儘な子だとか親の躾が悪いだとか誤解もされやすいです。全ての自閉症の人が光くんの様だとも限らず、対応の仕方も含めて、個々にそれぞれ様子が違うのでしょうが、この障碍に対する一般の理解を広める作品だと思います。そして子育てに関して言えば、障碍の有無に限らず参考になる所、共感する所が沢山ある作品でもあります。

小さいお子さんをお持ちの方は勿論、これから親になる予定がある若い方も、きっと何かが得られると思います。
# by hitokohon | 2005-06-03 21:31 | 漫画・アニメ関連
イン・ザ・プール/空中ブランコ
奥田英朗 著 

イン・ザ・プール」2002年5月発行 文藝春秋社
所収作品:初出
・イン・ザ・プール ・・・・ オール読物 平成12年 8月号
・勃ちっ放し ・・・・・・・・・・ オール読物 平成13年 8月号
・コンパニオン ・・・・・・・・ オール読物 平成13年11月号
・フレンズ ・・・・・・・・・・・・ 別冊文藝春秋 平成14年1月号
・いてもたっても ・・・・・・ オール読物 平成14年 3月号

空中ブランコ」2004年4月発行 文藝春秋社
所収作品:初出
・空中ブランコ ・・・・・・ オール読物 平成15年 1月号
・ハリネズミ ・・・・・・・・ オール読物 平成15年 7月号
・義父のズラ ・・・・・・・・ オール読物 平成15年10月号
              (「教授のズラ」加筆改題 )
・ホットコーナー ・・・・ オール読物 平成15年 4月号
・女流作家 ・・・・・・・・・・ オール読物 平成16年 1月号

伊良部一郎という一風変った精神科医が登場するシリーズもの。それぞれ一話完結の短編になっているので、どこから読んでも楽しめます。「空中ブランコ」は昨年第131回直木賞を受賞して注目され、明日27日(金)夜9時、フジTVでドラマも放映されるようです。

30代半ばの伊良部一郎はバツイチでマザコン気味の精神科医。診療室ではどちらが患者なのか判らない様な対応を見せる、頼りなく変人じみた謎(迷)医? 天然というのか、子どもじみた好奇心と執着心、意外な行動力で、患者の問題に深く関わっている活動に自分自身も熱中し、それが結果として患者を癒して行くことに。謎医は名医だったのか、それとも只の物好きな変人なのか。当事者にとっては深刻な問題が、伊良部の極端な行動を通して面白く描かれ、読者をひき付けます。
# by hitokohon | 2005-05-26 21:53 | 文芸・書評
「のだめカンタービレ」12巻
二ノ宮和子 著  2005/5/13 発行 講談社コミックスKiss

2001年から講談社のコミック雑誌「Kiss」に連載されている、クラッシク音楽ラブコメディ?

主人公の野田恵(通称のだめ)はピアノ科の音大生。本能の赴くままに人を惹きつける演奏をするかと思えば、楽譜通りに演奏できないという、天才なんだか落ちこぼれなんだか判らないピアニスト。物怖じしない性格で前向き、かと思うと前後不覚に地の果てまで落ち込む極端な性格。その上超片付けらない女で、奇行に走ることもある変人と思われる節も・・・。

そんな「のだめ」に一目惚れされたのが、上級生の千秋真一。著名ピアニストを父親に持ち、本人も指揮者を目指す優秀な音大生である彼は、ルックスの良さとオレ様な性格で学内でも有名人。皆に近寄り難いと思われているその千秋先輩に、何の躊躇もなく接近して行くのだめ。次第にのだめペースに嵌って行く千秋と、彼の影響で演奏家としての自分に目覚めていくのだめ。やがて二人はパリに留学する事に。

12巻では、指揮者コンクールに優勝した千秋が、パリでのデビュー公演に臨むことに。一方のだめは、学校でのレッスンに自信を無くしドツボな日々。そんなのだめを正攻法で叱咤激励する千秋に対し、「彼女に、余計な事を教えるな!」と怒鳴りつける、屋根裏部屋の謎の画家。そして、日本にいた頃のだめに片思いしていたこともあるオーボエ奏者の黒木くんが現われたり、ユニークな登場人物たちに囲まれて、二人の留学生活は前途多難? 今後の物語とふたりの関係の進展が楽しみです。
# by hitokohon | 2005-05-22 22:21 | 漫画・アニメ関連
命を救う「ふれあい囲碁」
安田泰敏 著 日本放送出版協会 2004/11/10 発行 生活人新書124

以前紹介した「子どもと始める囲碁」(岩波アクティブ新書)の著者、プロ棋士安田泰敏九段の著書です。「子どもと始める囲碁」の中でも紹介されていた、保育園や幼稚園、福祉施設などで安田さんが行っている、囲碁を通してコミュニケーションの楽しさを伝える活動について書かれています。

安田さんはプロの棋士ですが、この「ふれあい囲碁」の活動では、囲碁の技術的向上についての指導はしていません。全くの囲碁初心者の幼児や小中学生、障碍をもった方々などに、対戦相手が居なければ出来ない囲碁というゲームの基本ルールを教えます。石を置くことによって自分の意思を表現し、石を置くことによって人とふれあう喜びを感じてもらおうと云う試みなのです。

いじめを苦に自殺した中学生のにニュースを見て、孤立して苦しんでいる人を救いたい、という一心で安田さんはこの「ふれあい囲碁」の活動を始められたそうです。
国は、「命の大切さ」や「心の教育」に力を注いでいますが、理想や理屈だけでは一人の命も救えません。
子どもたちが望んでいるのは、「自分の傍にいてほしい」「自分の話を聞いてほしい」「自分のことを見守ってほしい」ということなのです。
と、この本の「まえがき」に書いておられましたが、安田さんが「ふれあい囲碁」で行っている指導の姿勢は、まさにその子どもたちの望みを叶えるように、相手に寄り添い見守る事でした。決して囲碁を教え込む事ではないのです。読み進めながら、そんなに上手く行くものだろうか、という疑問も感じましたが、現実に奇跡はいくつも起きたようです。

そんな中で出会ったある保育園児の少女は、囲碁の先生になって「世界の人に囲碁を教えて、みんなで仲良く幸せになりたい!」と将来の希望を話したそうです。それがキッカケとなって、安田さんの「ふれあい囲碁」の活動は海外にも広がる事になりました。これは、小林光一九段が著書「棋士ふたり」に書かれていた、女流棋士であった亡き妻禮子さんの、囲碁普及への思いにつながるものだと感じました。

囲碁についてより、子どもと向き合う姿勢、人と関わる思いを教えられる内容でした。
# by hitokohon | 2005-05-14 15:00 | 囲碁関連
ミカドの肖像
猪瀬直樹 著 2005/3/8 発行 小学館文庫

自blog「網上徒然話」からの転載です。(加筆訂正有)

ここ数年は、作家としてより道路公団問題でのマスコミへの露出が多かった猪瀬直樹さんですが、彼の作家としての出世作と言えるのが、1986年に小学館から出版された「ミカドの肖像」です。翌87年に「大宅壮一賞」を受賞し、ノンフィクション作家として広く世間に知られる事になりました。現在は同賞の選考委員もされているようです。

歴史好きだった私は、天皇を意味する「ミカド」というキーワードに反応してこの本を手にしました。出版されて間もない頃だったと思います。でも内容は私が想像した歴史モノとは大分違って、天皇そのものを扱ったのではなく、天皇というブランドがどのよう創り出され、守られ、また利用されているか、という検証でした。面白そうだったのですが、ハードカバー本は高くて買えませんでした。その後91年に「ミカドの肖像―プリンスホテルの謎」と題して小学館ライブラリー版(ちょっと大き目の文庫)になったモノを読みました。そう、サブタイトルにもなったように、この本の中で一番興味深かったのは、プリンスホテルに関する部分だったんです。それは、去る3月、有価証券報告書虚偽記載などで逮捕された、前コクド会長堤義明容疑者の父康次郎氏が、いかにしてあのプリンスホテルグループを創り、西武グループ繁栄の基盤を固めたのか、という話なんです。20年も前の著作ですが、中々旬な話題を扱っていると思います。

残念ながらライブラリー版は品切れ状態、と思ったら、完全版のこの文庫版が出たようです。そうですよ、今売らなくて何時売るのこの話題本。新装版出さなくても、ライブラリー版を重版すればいいのに、と素人の私でも思ったくらいですから。

この本を読む前の独身呉服屋店員の頃、年に何度かある展示会の内1回は赤坂プリンスホテル旧館を使うのが恒例で、私も中に入っています。この旧館はホテルといっても文明開化の頃に建てた様なお屋敷の造りになっており、展示会では全館貸切で使用していたと記憶しています。入社して初めての展示会もここだったので、お客様を迎える為にそのお屋敷の玄関に並んでいて、緊張して足が震えたのを覚えています。

ビルになっている新館の横にひっそりと建っている、という感のある旧館でしたが、きっと創業当時の建物を大切にしているのだろう、と当時は思っていました。でも「ミカドの肖像」を読んで謎が解けました。あの旧館は、まさにプリンスのお屋敷だったのです。検索してみたら近代建築散策というサイトに写真もありました。ここでも紹介されいるように、戦前は李氏朝鮮最後の皇太子のお住まいだったのです。朝鮮の皇太子が何故日本に住み、日本の皇族の女性と結婚していたのか、という戦前の歴史もこの本で知りました。

本書によると、戦時下の日本にあって、終戦後の土地高騰を予想していた堤康次郎氏は、空襲警報が鳴る中でも電話をかけまくって土地を買いあさっていたそうです。そして戦後、旧皇族が皇籍離脱させられ、天皇家にも固定資産税が課せられる事になった時、現金が無いだろう彼らから屋敷を買い取っていたのも康次郎氏でした。東京にあるプリンスホテルは、ほとんどが旧皇族の屋敷だったところで、赤プリ旧館のようにお屋敷そのものを利用している所もあるわけです。プリンスホテルという名も、そこからの命名だそうです。

この本を読んだ当時は、まだバブルが崩壊しきっていない頃でした。成功する人は考える事が違うわ、と感心するやら恐れ入るやらでしたが、今読むとまた違った感慨があるかもしれません。
# by hitokohon | 2005-05-13 21:39 | 歴史・ノンフィクション
風-BLOW-(硝子の街にて19)
サブタイトル:9.11その朝
柏枝真郷 著(茶屋町勝呂 イラスト)2005/3/5 発行 講談社X文庫

「硝子の街にて」は、1996年の「窓-WINDOW-」からの続く文庫書き下ろしのシリーズ。ニューヨークを舞台に、アメリカ国籍の日本人青年広瀬伸行と幼馴染のシドニーの恋愛模様を軸にしながら、毎回彼らが遭遇する事件とそれをめぐる人間模様、そして解決までを描く、ボーイズラブ系の推理小説です。柏枝真郷さんは、ボーイズラブ系ではとても好きな作家で、このシリーズも毎回楽しみに読ませていただいてます。

アメリカ駐在の日本人商社マン夫婦の家庭に生まれた伸行は、幼少期をアメリカで過ごしました。その時の隣人がシドニーの一家であり、共に一人っ子だったふたりは兄弟の様に仲の良い幼馴染でした。しかし、両親の離婚により伸行は母の実家である東京に戻ることになり、二人は別れ別れに。その後文通を続けるだけだった二人が再会したのは、成人するまで日米二重国籍だった伸行が日本国籍を捨てアメリカ人としてニューヨークへ戻って来た時でした。

ゲイであるシドニーは証券会社に勤める恋人のロッドと暮らしていましたが、伸行の出現は二人の間柄に波紋を広げます。何故なら、伸行はシドニーにとって今も忘れがたく思う初恋の相手であり、ロッドもそれに気付いてしまったからです。気付かないのは、シドニーがゲイであると知っても、幼馴染の親友とばかり思い込んでいる伸行だけでした。そんな微妙な三角関係がしばらく続いた後、紆余曲折を経て、何とか恋人同士になって行くシドニーと伸行・・・。というのが「硝子の街にて18」までの物語の大筋です。

そして、9.11その朝。ニューヨーク市警察の刑事であるシドニーと、日本の旅行会社の現地事務所に勤める伸行、そして友人で消防士のスティーブ。この街に暮らす人々にも、この街を訪れている人々にも、いつもと同じ朝が訪れた2001年9月11日。街が本格的に動き出そうとしている午前9時前に、それは突然襲ってきたました。アメリカ同時多発テロ。忙しく喧騒に満ちながらも平穏な日常が、悪夢の戦場と化した、9.11その朝。その瞬間から、伸行が、シドニーが、スティーブが、それぞれの職務を、どんな思いで、どのように遂行して行ったのか。ニュース映像だけでは知り得ない当事者たちの姿を、小説というかたちで描き出しています。

消防士のスティーブが、救命救急士たちと救助した怪我人を搬送した病院で見た、たくさんのDOA(Dead on Arrival=到着時死亡)タグ・・・。殺人事件としてカウントされはしないが、これは明らかに殺人だと思うシドニー。宿泊先に戻らない日本人観光客の安否確認に奔走する伸行。思わぬところで得られた一般市民の協力と機転と勇気がお互いを救う事につながったり、混乱に乗じて悪事を働く不埒者が出没したり。そういう部分を書くには、資料収集や取材が大変だったのではないかと思われました。

フィクションであるこのシリーズの中で「あの日」を描く事の是非を思い、シリーズを「あの日」以前で終わらせる事も考えたという著者の柏枝さん。ボーイズラブという枠に関係なく、迷いを振り払って、真正面から「9.11その朝」を書かれた作家としての覚悟に、敬意を表したい思いで一杯です。
# by hitokohon | 2005-03-20 22:44 | 文芸・書評
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